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城崎 館長ブログ126

  伊勢志摩の冬は伊勢海老に牡蠣に鰆と美味に事欠かないが、蟹だけはやはり本場に出向かなければ味わえない。そして冬は温泉。というわけで、城崎に行きました。蟹と温泉を売り物にするところは多々あれど、心惹かれたのは城崎が「本と温泉」という試みを行っているのを知ったから。城崎と文学といえば志賀直哉を思い浮かべるが、最近の人気作家による、城崎を舞台とした作品がリリースされていて、それらは現地に行かないと入手できない仕組みになっているらしい。湊かなえと万城目学の読者というわけではないのだが、どうも気になる。それに城崎文芸館という施設もあるので、見学を兼ねて出かけることにした。


丹後の海

 京都から287系特急「はしだて3号」で福知山を経て京都丹後鉄道宮福線で天橋立。そこで「はしだて5号」として運用されている丹鉄KTR8000系に乗り換えて宮豊線を行き、豊岡で山陰本線。各停で二つ目が城崎だ。京都から直通で行けば良いのだが、せっかくの機会、水戸岡鋭治氏が改装を手掛けた車両に乗ってみたかったので遠回り。かつて「タンゴ・ディスカバリー」だった車両をベースに2015年、内外装を刷新、深い紺の塗色、内装に木材を多用するところなど約束通りに仕上げられたのが「丹後の海」で、宮豊線では先頭車両が展望スペースとなる。本当なら特別料金を徴収されても文句のいえないところだが、自由席料金で利用できる。京都丹後鉄道、なかなか鷹揚なところを見せている。




 さて、城崎に到着。駅前に係員が待機していて来客の宿を尋ね、乗り合いのバスで旅館まで送り届けてくれる。予約したのは志賀直哉ゆかりの宿。窓の外の雪景色は今年初めてと教えられる。一階ロビーには図書スペースがあり、おしゃれな演出です。

 夕食は蟹。城崎近くに津居山漁港。ここに水揚げされる松葉蟹が津居山蟹というブランドで、青いタグが付いている。削ぎ切った太い脚の身の、まだ収縮の動きを見せているのを、上向き加減に頬ばれば、その繊維の嫋々と、無垢にして純粋な滴りが口中に溢れるのを如何にとやせん。結局、二時間、蟹を相手に費やして、もはや外湯に出る気になれず。宿の内湯で四肢を伸ばして満足し、志賀直哉の隣の部屋に一夜を過ごした。


本と温泉

 翌日、雪の明日は乞食の洗濯の譬え通りに快晴。夜の名残を留める町並みを通り、城崎文芸館に行く。まず、城崎の発展を概観できる資料が展示された部屋を見る。どの土地も歴史を重ねて今日に至るのだが、それをきちんと見せるのは来客をもてなす基本だろう。この文芸館は小規模だが、郷土資料館としての役割も兼ね備えており、近世から近代、現代に至る、温泉を中心としたこの町の発展の様子を可視化している。常設は志賀直哉と城崎温泉、それにゆかりの文人墨客を集約。そして「『本と温泉』のつくり方。」と題した企画展で、目当ての本を買うことができた。志賀直哉の来湯百年を機として新しい世代の温泉文学を送り出そうという趣旨で出版された江口宏志『注釈城の崎にて』、万城目学『城崎裁判』、湊かなえ『城崎にかえる』の三冊を購入。湊かなえの本は蟹の脚を模した箱入り、『城崎裁判』はタオルに包まれ、本自体は耐水性のある紙に印刷されているのでお風呂に入って読むことができるそう。次回配本はtupera tuperaの絵本と予告されていて、おお、三重県出身の、と見れば、なんと発売は明日なのだった。入手のためには再訪するしかないか。

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