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「蛇のジュエリー」館長のブログ183

新年あけましておめでとうございます

本欄も長く続けていると内容が重複するのではと恐れる。今年の干支について書くのに、12年前の巳年の記事を見ると、やはり蛇のジュエリーに触れていた。今では削除されて、誰も記憶などしているはずはないが、引き写すのも気が引けるので、改めて書き起こすことにしよう。

当館収蔵品に4点、蛇をモティーフにしたジュエリーがある。入手の順に紹介すると、まずブルー・エナメルのネックレス(inv.no.428 写真①)。開館当初に入手したもので、普段、展示の機会はほとんどない。19世紀中期に作られたと思われる、口元からハート型のペンダントを下げた姿で、真珠は頭の上に6個とハートの中央に1個嵌入されている。ハートの裏側はガラスの蓋で覆われ、中に髪の毛の束が入っているが、入手当初はそれに気付かず、キャプションに反映されなかった。その後、髪の毛の理由に気付いて、去っていった人に対する感傷を内包した、センチメンタル・ジュエリーの事例として意義を見出し、今日に至っている。目は赤い宝石で、尻尾を頭の方に繋げ、蛇としてお約束の姿をしている。口を開いた顔は少し剽軽で、金工の出来はさほどでもないが、愛すべき一品といえる。

それに比べると、全身に真珠を散りばめたネックレス(inv.no.652 写真②)は迫力十分だ。まず顔の表情が違う。口元から覗く鋭い歯並びと不敵な赤い目で見る者を威嚇する。こういう姿は向かって来る外敵から身に着けた本人を守るという意味で、ジュエリーが本来持つ護符の役割を果たしている。全身にまとう真珠は、もともと丸い真珠を半分にカットしたハーフパールで、底部の周囲を金で囲って固定させたコレットという取り付け方法に拠っている。日本に「自在」という、その名の通り、胴体や関節が動くように高度な金工技法で作られた細工品がある。それには及ばないにしても、この蛇は胴体部品の組み合わせで全体の形を自由に変化させることができる。尻尾にある留金は蛇の口に差し込んで固定するが、これは始まりと終わりを結び付け、円環となって永遠を表わす。近頃ではメディアでも取り上げられて知名度が高くなったようだが、「ウロボロス」というデザインを具体化したものである。19世紀中期、イギリスで作られたと思われる。

一方で、二匹の蛇が杖に巻き付いた姿で現されるのが「カドケウス」。ギリシャ神話のヘルメスが持つ杖で、医療の象徴として理解されている。箱に入った小さなブローチ(inv.658写真③)は中央の真珠を二匹の蛇が取り巻く姿で現されていて、さすがにこれをカドケウスと呼ぶには憚られるが、絡み合う蛇という観点では何か通底する意味を託したのかもしれない。ロンドンに店を構えたコリンウッドの作で、小さいながらも蛇は赤い目を光らせ、表面の緑色のエナメルを通して金属に彫刻された蛇の鱗のような模様まで見て取れる。真珠は貝殻の内面に膨らんだ部分を切り取って用いたもののようで、瘤状の、いわゆるブリスターと考えれば良いか。巣の中の大切な卵を守る二匹のようでもある。

ハーフパールで全身を覆った円形のブローチ(inv.no.679  写真④)は尻尾を頭の横に廻しているので「ウロボロス」と理解できる。口元から下がったペンダント部分は中央のガラス蓋の下に編み込んだ髪の毛、その周囲は色の異なる小さな宝石で、REGARDと表されている。ルビー、エメラルド、ガーネット、アメシスト、ルビーにダイヤモンド。宝石の頭文字で言葉を紡ぐ、アクロスティックという言葉遊び。すると、中央の髪の毛の持ち主に対するリガード、親愛の情は、その周りの蛇に抱擁されて永遠なり、とでもいうべきか。裏側にはふたりの人物名が刻まれていて、200年後の私たちに愛情を伝えている。

これら蛇のジュエリーは博物館第一展示室で1月末まで展示中。どうぞご覧下さい。


真珠博物館館長

松月清郎


写真①
写真②






写真④


写真③






















写真① ブルー・エナメルのネックレス(inv.no.428) 

写真② ハーフパールのネックレス(inv.no.652) 

写真③ 二匹の蛇のブローチ(inv.658)

写真④ リガードと髪の毛のブローチ(inv.no.679)

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