top of page
検索

「岐阜」館長のブログ178

 梅雨の時期なのに晴天が続く6月下旬、鮎を食べるため岐阜市に向かった。昼に名鉄岐阜駅に到着。町を歩くと道路沿いにバルのような蕎麦屋を発見、表の看板メニューを検討、小鮎の冷たい蕎麦を注文する。待つことしばし。綺麗な蕎麦の上に中指ほどの鮎を並べたお椀が出て来た。柑橘の香りと軽く炊いた鮎のはらわたの苦みが、季節の到来を実感させてくれる。夜は長良川沿いの旅館に鮎づくしの料理を予約してあるので、これは手始め。

 岐阜公園までバスに乗り、ロープウェイで金華山。山頂駅から山道を歩くこと十数分。標高329メートルの頂上に到着。岐阜城天守閣の最上階から眼下に長良川、遠く御嶽、北アルプスを遥かに見通す。空気の澄んだ時は富士山まで望めるかもしれない。よくもこの岩山の頂上に築いたものと感心する。

 下りもロープウェイ。古い町並みの様子を残す川原町を散策、長良橋を渡って宿に入る。部屋は長良川に面した6階で、向かいの金華山頂に城を眺める絶好の景観。その上、部屋から居ながらにして鵜飼が見物できるという。

 薄暮になると空は雲に覆われた。晩御飯が始まる。鮎そうめん、馴れずし、昆布締め、そして塩焼き。頭から齧ると骨の砕ける感触のあとに背中の柔らかい身がほろほろと解ける。苔の匂いを懐かしみながら、香ばしく炙った皮に包まれた長良川の恵みを惜しみなく味わう。一夜干し、姿鮨、天ぷら、煮物に混ぜ御飯と文字通りの鮎づくしを堪能し、宴は果てた。

 定番の観光なら、この後は鵜飼観覧船に乗って川面から漁を見学するところだが、何しろ部屋から眺めることができるので、ベランダの椅子に座り込む。暗くなった川面を6隻の鵜舟が上流に移動し、大勢の見学客を乗せた船が12隻、川原の水際に並んで待機。やがて篝火を焚いた鵜舟が順番に下って来ると、見学客を乗せた船がそれぞれに2隻ずつ随伴する。舳先で鵜匠が鵜を操る縄の動きと川面の波紋は篝火だけで眺められるものの、あとは想像するだけだ。俯瞰で見ているので全体の動きがわかり、それはそれで面白いのだが、一方で距離があるために臨場感には欠ける。川の水と篝火の微かな匂い、鵜匠が船端を叩く音が遠く聞こえるだけで宜しとしなければならない。やはり多少の乗船料を払って船から見るのが鵜飼文化振興の面からも望ましいのだろう。6隻の鵜舟が隊列を組んで鮎を追い込む「総がらみ」を迎え、それが終わると舟は下流に流れて行く。そうして篝火がいつの間にか消え、川面は闇となった。「面白うて やがて哀しき 鵜飼舟」。芭蕉の詠嘆は時を越える。

 翌日は雨。金華山頂は霧に隠れて城は見えない。宿の近くに鵜飼のことを学べる博物館があるので訪ねてみた。「鵜飼ミュージアム」という岐阜市の施設だ。平成24年の開館で、1300年以上続く長良川鵜飼の文化を広く紹介、博物館活動を通じて、郷土の誇りとしての鵜飼の伝統を守ろうという趣旨で運営されている。館内は映像を中心とした展示で、絵巻物型の大型スクリーンで上映される鵜飼の様子、水中での鵜の動き、鵜匠の一日や年中行事などで構成されている。作り付けの造作が多いので展示替えなどの対応は大変だろうが、鵜飼を知るためのオリエンテーションとしては充分な内容で、立地も良い。観光振興と伝統に向かい合う岐阜市の姿勢が推し量れる。

 雨の中を移動して岐阜県美術館。ここで企画展「ビロンギング」展を見る。岐阜県ゆかりの美術家の業績を紹介するシリーズで、今回は松山智一、公花、後藤映則、横山奈美、山内祥太の五人の作品が展示されている。いずれも印象深い作品ばかりだが、とりわけ、円形や曲線から成るキャンバスに描かれた松山智一の色鮮やかな作品に眼を奪われる。要所に配置された花や鳥は江戸期の絵画から引用されたように見え、無表情な人物が着る洋服の文様も古典柄らしい。東洋と西洋、過去と現在が入り混じる画面は、思いもよらぬ図像の取合せを探し出す楽しさに溢れている。また後藤映則のキネティック・アートが暗闇の中で見せる不思議な光の動きは目を疑うほどに刺激的だった。

 さて、土産は「鵜飼ミュージアム」のショップで売っていた『あゆがし図鑑』という小冊子(1000円)。鮎のかたちをした和菓子の原寸大図鑑で、岐阜市内の店に並ぶいろいろな製品の表情を一覧することができる。「あゆがし」の原型は岡山銘菓の「調布」という、カステラで求肥を包んだ菓子らしい。知恵者がいたのか、鮎の形を模して各地に伝播し、「若鮎」とか「飛び鮎」など色々な名前で夏の菓子として定番になっている。

 この「あゆがし」の背中の一辺を蝶番にして全体を丸く成形、中に求肥と粒餡を入れ、外側に貝殻模様の焼印を押して「あこやがし」。鳥羽志摩銘菓にどうでしょう。

2024年6月28日

松月清郎

写真① 川原町の街並み

写真② 薄暮の長良川

写真③ 鵜飼ミュージアム(パンフレット)

写真④ 「ビロンギング」展(チラシ)

写真⑤ 『あゆがし図鑑』

写真⑥ 伸光製菓製「飛びあゆ」

Comentários


bottom of page